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大阪高等裁判所 昭和56年(行コ)16号 判決

控訴人(原告) 姫路赤十字病院

被控訴人(被告) 兵庫県地方労働委員会

補助参加人 日本赤十字労働組合姫路支部

主文

本件控訴を棄却する。

控訴費用は控訴人の負担とする。

事実

一  控訴人は「原判決を取消す。被控訴人が兵庫県地方労働委員会昭和五二年(不)第六号不当労働行為救済申立事件について、昭和五三年二月一〇日付でなした不当労働行為救済命令はこれを取消す。訴訟費用は第一、二審とも被控訴人の負担とする。」との判決を求め、被控訴人及びその補助参加人は主文同旨の判決を求めた。

二  当事者双方の主張及び証拠関係は、次のとおり付加するほか、原判決の事実摘示と同じである(ただし、原判決三枚目表四行目の「五月一六日」を「五月二六日」と、同四枚目表一一行目及び同表一二行目の各「斗争」をいずれも「闘争」と、同表一二行目の「一貫として」を「一環として」と、同五枚目表七行目の「昭和五一年」を「昭和五二年」と、同七枚目裏九行目の「相異し」を「相違し」と、それぞれ改める。)から、これを引用する。

(控訴人の主張)

1  原判決は、労働組合法六条の受任者は自然人に限定されないとし、その根拠を「労働組合運動は団体相互の協力体制を通常の運動形態とするものであつて、この運動形態に鑑みると、労働組合がその交渉力を強化するため他の団体の支援を要請しこれにその交渉権限を委任することは、特段の事由がない限り容認されなければならない」ことに求めているが、なるほど、労働組合運動の形態からすると、事実上労働組合がその交渉力を強化するため他の団体の支援を要請し、抗議行動あるいはデモンストレーシヨンを組織するとはいえても、法律上交渉権限を委任することができるかどうかは別個の問題であり、原判決は、この点につき控訴人が原審で提起した法律上の問題(原判決事実第二、四5の主張)に答えていない。また、原判決は、右の根拠として「団体交渉事項の如何によつては自らが交渉当事者とならないで第三者たる団体に交渉権を委譲し、その団体の代表者をして団体交渉の当事者とさせるのが適当である場合もある」ことをあげているが、いわゆる団体交渉権の委譲は、その委任とは別個の概念であるから、右の説示は前記の結論を導くための論拠にはなりえない。

2  団体交渉の委任は組合大会の決議を要するとの控訴人の主張(原判決事実第二、四6の主張)は、委任の有効要件として主張しているのであるから、控訴人が当時右の決議を欠くとの事実を認識していなかつたとか、組合内部のことがらであるとかの理由で右の主張を排斥することはできない。

3  本件団体交渉の主たる交渉事項である龍田敏子の解雇については、原審(原判決事実第二、四7)で主張したとおり、すでに地位保全の仮処分決定があつたが、その後その本案訴訟についても第一審判決(同人の地位を確認し給与の支払を命じたが、不当労働行為性は認められなかつた。)があり、同事件は現在大阪高等裁判所第五民事部に係属中である。控訴人は、かねて右の解雇問題は医療問題であつて労働問題ではなく、したがつて団体交渉で解決される事案ではないと考えていたが、右第一審判決が不当労働行為性を否定したことは控訴人の右の判断を裏づけるものである。したがつて、右の解雇問題は右の訴訟の中で解決されるべきものであり、本件救済命令の救済利益はますます乏しいというべきである。

(被控訴人補助参加人の主張)

1  労働組合法六条は、法文上「労働組合の委任を受けた者」を自然人に限つていないことは明らかであるうえ、法人が労働組合から交渉権限の委任を受けた場合、その法人内部において交渉担当者を決めてその者が団体交渉に出席し、委任者である右の労働組合のために交渉することは法的に何ら問題のあることではないから、控訴人の前記1の主張は理由がない。

2  控訴人が前記2で主張する団体交渉の委任の手続に関する事項は、組合内部の問題であり、使用者である控訴人側から主張しうる筋合のものではない。

3  控訴人が前記3で主張する地位確認の本案訴訟で解雇の不当労働行為性が認められなかつたのは、早期結審の目的のため不当労働行為性に関する立証を尽くさなかつた結果にすぎないし、解雇を含む組合員の労働条件に関する問題が団体交渉事項であることは明らかであるから、本件救済命令の救済利益が失われたということはできない。

(証拠関係)〈省略〉

理由

一  当裁判所も、控訴人の本訴請求は失当として棄却すべきものと判断するが、その理由は、次のとおり訂正・付加するほか、原判決の理由説示と同じであるから、これを引用する。

1  原判決一八枚目裏八行目の「証人佐藤義夫の証言」を「原審証人佐藤義夫、当審証人堀内道博の各証言」と、同一九枚目表一二行目から一三行目の「申請をしたうえ」を「申請をしたか」と、同裏二行目の「申入れをした。」を「申入れがなされたので、」と、同二二枚目表二行目の「団体である法人」を「団体(法人及び権利能力なき社団、以下同じ)」と改め、同表三行目の「労働組合は」から同表末行の「相当である。」までを削り、同表三行目の「さらに、」の次に、「控訴人は、労働組合法六条にいう委任は団体交渉という事実行為の委任であるから、その性質上受任者は自然人に限られるし、また、団体を受任者とすることは大衆団交を認めるに等しいなどと主張するけれども、団体はその代表機関を通じて法律行為のみならず事実行為をもなしうるものと解されるから、団体が事実行為の受任者となることを否定すべき理由はないし、また、団体が受任者となつたからといつてその構成員の誰でもが団体交渉に出席しうるわけではなく、現実に受任行為としての団体交渉を担当するのは当該団体の代表者に限定されるべきものと解されるから、大衆団交を認めるに等しいとの控訴人の前記非難は当らない。」を加える。

2  原判決二三枚目表二行目の「明白であり」を「優に推認でき」と、同表九行目の「証人佐藤義夫の証言」を「前掲証人佐藤義夫、同堀内道博の各証言」とそれぞれ改め、同表一〇行目及び同一二行目の各「供述」の次にいずれも「記載」を加え、同二五枚目表三行目の「係属しているとしても」を「係属しその第一審判決があつたとしても」と改める。

二  よつて、控訴人の本訴請求を棄却した原判決は相当であるから、本件控訴を棄却することとし、控訴費用の負担につき民事訴訟法九五条、八九条を適用して、主文のとおり判決する。

(裁判官 唐松寛 奥輝雄 鳥越健治)

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